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虹のパレット 娘と歩いた18年


    娘と歩いた18年=岡村孝子 
                        毎日新聞2016年3月14日 地方版


厚手のダウンコートを薄いトレンチコートに着替えて身も心も軽くなる季節になりました。娘も無事に高校を卒業し、春から大学生になります。あー。長い長い冬を越えて、やっとたどり着きました……春。

 4歳の娘と郊外の町で新しい人生のスタートを切った日が、ついこの間のことのよう。引っ越したその日の夜、近所のお総菜屋さんから帰る途中、娘と手をつないで冬の夜空を見上げながら、「あ〜、空にはこんなに星があるんだな」と感じたこと。娘の手のぬくもりに「この娘(こ)のために頑張ろう」と誓ったこと。「これからどうなっていくんだろう」という不安な気持ちと同時に、明るい希望を胸に抱いたことを思い出します。


 引っ越しに伴い、幼稚園から移った保育園で名字が変わった初めての日、帰って来た娘に「どうだった?」と心配な気持ちを隠しながら聞いてみると、「先生がね、壇の上に私をあげて、みんな来て〜! 今日から○○ちゃんの名前が岡村○○ちゃんに変わります」って笑って言って……。そしたらみんなが「わぁ〜すご〜い、どうしたら変えられるの? いいなあ」で、ハイ終わり。とニコニコ。ほっと胸をなでおろしました。


 あれから、ひたすら歩き続けてきました。まだ小さい娘を家に残し(母に来てもらい)後ろ髪を引かれる思いでツアーやキャンペーンに出かけたこと、娘が寝た後、夜中にベッドの娘の横で、ひざを抱えながら詞を書いたレコーディング。なるべくたくさんの思い出を作りたくて、おじいちゃん、おばあちゃんと共に過ごしたり、母と娘と3人で南の島に旅行した春休み。娘を支えてくれていた父や愛犬ハッピーとの永遠の別れや2代目チワワ、りりぃとの出会い。娘にとってはジェットコースターのような毎日だったかもしれません。


 でも、一緒に歩いてきた18年間。いろいろと楽しかったなあ。長い年月の間には、一生懸命、頑張っている私や娘にこんなえげつのない言動を投げかける人がいるんだ!? とゾッとすることもあったし、また、逆に温かい優しさに触れ、世の中捨てたもんじゃないなーと心がほっこりとしたことも。


 とにもかくにも、よくぞ、ここまで無事に育ってくれました。両親だけではなく、スタッフや時には先輩ママさんや友人に助けてもらいながら歩いて来ることができました。高校を卒業するまでは、とりあえず頑張ってみよう! とはるかかなたに定めた目標に、気付けばたどり着いていました。目の前の1日1日を重ねていくと、未来に届くものなんですね。


 ここ3年ほどは、一番きつかったかもしれません。何て言うか……う〜ん、素手で戦いぬいてしまった、というか。疲れたねー。女3世代で温泉にでも行って並んでマッサージしてもらいながら「お疲れさま会」をしようかな。おしゃれの話をしたり、買い物をしたり、これからの夢を語ったり……。


 そして充電したら、また、私の30周年イヤーに向けて歩き出そう。(シンガー・ソングライター)




 ■人物略歴

おかむら・たかこ

 1962年愛知県岡崎市生まれ。椙山女学園大学在学中に同級生の加藤晴子さんとデュオ「あみん」を結成し、82年に「待つわ」でデビューした。85年にソロデビュー。87年に発表した「夢をあきらめないで」はロングセールスを記録した。3月23日、渋谷公会堂で昨年行ったライブを収めたブルーレイ「ENCORE8」を発売予定。








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