東日本大震災以降、〈歌のチカラ〉が見直され、そんな中でも岡村孝子の「夢をあきらめないで」は応援歌として再び注目を浴びています。「夢をあきらめないで」は1987年2月4日にリリースされました。この曲には2社のタイアップが付きました。ひとつは予備校のCM。もうひとつが春の高校野球のイメージ・ソングとして、TBSテレビのニュースの中で感動のシーンとともに使われるというものでした。そして、その結果、「夢をあきらめないで」は長年にわたって、青春の汗と涙の応援歌として定着していくこととなったのです。今では“エール・ソング”(応援歌)のスタンダード・ナンバーと言っていいでしょう。
そんな究極のエール・ソングだけに、震災以降、応援歌が必要とされている状況にあって、改めて注目を浴びたというわけです。彼女は声高に叫ぶことはしませんが、確実に歌で心を癒してくれ勇気と元気を与えてくれます。時代は今、〈歌のチカラ〉を必要としています。そして、それは岡村の歌が持つ魅力を必要としている証明でもあるのです。その意味で、彼女のソロ・デビュー25周年記念アルバム『勇気』は待望のアルバムと言っていいでしょう。
このアルバムの準備期間中に、彼女は震災にあいました。自宅で娘といるときに家具が大きく傾くほどの揺れを体験し、映像で見た津波に衝撃を受けた、と言います。
「今こんなことをしていていいのか? 他にやるべきことがあるのではないか、と悩みました。そして、私には音楽を作って届けるしかないと考えてレコーディングを始めたんです」
震災の前と後とでは、彼女の心境は大きく変わっていました。
「ありふれた日常が一瞬になくなってしまうという現実を目のあたりにしたとき、昨日という日常が淡々と続いていくことの幸せを改めて実感しました。それからは、努力とか勇気を持って、瞬間を大切にして、一期一会を大切にしながら、日々生きていきたいと思っています」
そんな彼女の熱い想い〈一期一会〉をテーマにして、彼女はアルバムを作り始めました。必然的に、どの歌にもそのテーマが貫かれています。「昨日と変わらぬ 日常が続くことが 何よりも幸せ」(「ずっと」より)。「この瞬間 心にすべて刻むから 大切にしたい このひととき 一期一会」(「一期一会」より)。これらのフレーズは、彼女の心から素直に出てきた本音だけに、リアリティーがあって、私たちの心の琴線を打ち震わせる力があるのです。その〈歌の力〉が私たちに「よし頑張ろう」という元気と勇気の出るパワーを与えてくれるのです。
アルバム『勇気』を引っ下げて彼女はコンサート・ツアーに旅立ちました。大阪、名古屋、北海道とまわり、11月3日(木)に東京・渋谷公会堂に帰ってきます。〈歌の力〉を最大限に発揮することでしょう。『勇気』というアルバム・タイトル通り、このアルバムを聴いていると、心の底から「よし頑張ろう」という勇気が湧いてきます。“心のビタミン剤”としてアルバム『勇気』を薦めたいと思います。