虹のパレット:思い出の明治村、犬山に行きますよ
毎日新聞 2014年07月14日 地方版
「T’s GARDEN」ツアーが始まりました。
6月21日の千葉県松戸市・森のホール21からスタートしたこのコンサートツアーですが、張りつめた空気に包まれながら、今年もまた、応援してくださるみんなに会える喜びと幸せを心からかみしめています。
「T’s GARDEN」というのは「皆さんの家の近くに小さな庭があって、そこで岡村孝子のコンサートが行われるので普段着で遊びに来てくださいね。ようこそ、私の庭へ」というイメージのコンサートです。
ここで皆さんと出会っているこの瞬間は二度と巡ってはこない、たった一度きりのものだから、この一瞬、一期一会を大切にしたい……。そんな思いで毎回、臨んでいます。
初日は新しいセットリスト(曲目)を披露するのに一生懸命でしたが、先日終えた埼玉県熊谷市の江南総合文化会館ピピアでのコンサートあたりからペースを取り戻し、少しずつ楽しむ余裕がでてきました。よかった。ホッ。
おかげ様で32年という長い間、音楽を続けてくることができました。これもひとえに応援してくださる皆さんと、ずっと支えてくれているスタッフ、メンバーのおかげと感謝しています。
私、このメンバー、スタッフとの出会いがなかったら今、歌ってなかったかも。
本番前に、メンバーと円陣を組み、パワーをもらってからステージに向かいます。緊張感と「やるぞー」という気持ちが一気に高まる瞬間です。
ステージの袖でオーバーチュア(開演時に流す曲)を聞きながら、メークさんが最終チェックをして口紅を直してくれますが、喉が渇くのでお茶を飲み、口紅をぬり直し、またお茶を飲む、が繰り返されます。
客席の様子をのぞきこむと、ザワザワしている会場、シーンと静かな会場など、その日のお客さんの雰囲気が伝わってきます。
いよいよ本番前のオーバーチュアのオルゴールが流れ始めます。「これ聞くと緊張感?みたいなのが……ね」と淡々としているベースの山本さん。「今日、胃の調子がちょっと……。薬飲み忘れた」とドラムの高垣さん。それをニコニコと見ているキーボードの海老原さん。本番モードの表情に切り替わったギターの坪井さん。この和やかで、おごそかな空気が大好き。
メンバーがステージに出て行った後、私は「はい、行ってらっしゃい」とスタッフに送り出され、コンサートはスタートします。生涯現役を宣言しているとはいえ、「ああ、あと何回この瞬間を迎えることができるんだろう」と毎回、思いながら。
若い頃のようにツアーのことだけに集中して……というような活動ではなく、合間には日々の雑用や保護者会といったお母さんとしての仕事をこなす日常が続く。20代の私からは考えられない自分が今、ここにいます。だからこそ、見に来てくださる方と同じ空間の中で同じ時間と思いを共有して、また自分の場所に戻っていけるんだな……と、つくづく感じます。
このツアーは、秋まで、ゆったりとしたペースで続いていきますが、8月には32年目にして初めて愛知県犬山市でコンサートをします。小さい頃、明治村は何度も訪れていますが。どうぞ皆さん、普段着で気軽に遊びに来てくださいね。(シンガー・ソングライター)