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毎日新聞 2013年08月19日 地方版
先日、コンサートで大阪駅に行った時のことです。迎えに来ていた車に乗りこもうとしたその時「孝子さーん」という呼びかけに振り向いてみると、よくコンサートに足を運んでくださっている女性が2人。遠方からの友人と待ち合わせた後、私たちの到着を待ってくださっていたとのことでした。
今年もお会いできた喜びに二言三言、声をかけ合い「では、またね」と会場に向かいましたが……。そう言えば、最近、会場で顔を見かけなかったなあ、忙しかったのかしら?なんて思いながら、お二人から頂いた手紙に目を通してみると、お一人はご主人の仕事のことで少しバタバタし、もうお一人は体調を崩されていたということです。
そして私と同年代の彼女たち、「最近の友人との会話と言えば、もっぱら自分の病気のことと介護のことです」と。
「うーん。すごくわかる」(笑い)
私の音楽を聞いてくださる女性は、本当に同じ時代を共に歩いてきたといった方が多く、20代の頃、男女雇用機会均等法世代の私のコンサートは、圧倒的に女性が会場を占めていました。
ところが30代から40代にかけて(多分、多くの方が結婚をし、家事や育児に忙しかった頃)ぐっと女性が減り、寂しいなあーなんて思うこともありました。
それが40代になり、私もシングル(エヘヘ)としてライブ活動を再開した頃から、ポツポツと女性のお客さんが再び会場に足を運んでくださるようになりました。
育児などが落ちついて、少しだけ自分の時間を取り戻せたのでしょうか。時には小さなお子さんと一緒にいらっしゃる方も。
50代になった最近では、私も父の闘病や他界など、生きていく中で避けられないさまざまなことを経験し、それを言の葉にして歌うようになり、私にとって絵日記である音楽のページも、かなり色合いが変わってきました。
今年リリースしたアルバムは「NO RAIN, NO RAINBOW」といいます。ハワイのことわざで「雨なくして虹なし、雨が降るから虹が出る」という意味ですが、私はこの言葉を「悪いことの後には、きっと良いことがあるよ」といった意味でとらえています。
デビューして30年の中で、この10年くらいは、つらいことやしんどいこと、不条理なことをいっぱい経験したように思います。
私は、普通に結婚して子供が2人とか3人できて、もしかしたら音楽から離れてしまっても、そこに幸せを感じて生きていくタイプだとずっと思っていたので、この想定外の山あり谷ありの人生に一番自分が驚いているんですけど……。
でも、ちょっと客観的にシビアな目で俯瞰(ふかん)している「岡村孝子」からふり返ってみると、そういう経験をしたおかげで、いろんなことが少しはわかる大人になれたんじゃないの?みたいに感じます。きっとまちがってなかったって。
たぶん、その時期はとってもつらくて膝を抱えたんだろうと思うけど、気付いたら前に進んでいた。だから、今とても悲しいことのただ中にある方には「きっといつか前に進んでいるからね。あなたが前を向いて一生懸命歩こうとしている間、私は音楽を通して一緒に寄り添うからね」って伝えられたら……。
「何もまちがってないよ」って。(シンガー・ソングライター)
◇
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■人物略歴
1962年、愛知県岡崎市生まれ。椙山女学園大学在学中に同級生の加藤晴子さんとデュオ「あみん」を結成、デビュー曲「待つわ」は82年のヤマハポピュラーソングコンテストでグランプリに。85年にソロデビュー。87年に発表した「夢をあきらめないで」はロングセールスを記録した。今年3月にアルバム「NO RAIN, NO RAINBOW」をリリース。現在、全国コンサートツアー中。