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虹のパレット:30年の歳月を越えて


   虹のパレット:30年の歳月を越えて

                                                毎日新聞 2014年09月22日 地方版

 先日、愛知県犬山市でコンサートをした時に、幼なじみが見にきてくれました。

 日帰りだったため、コンサートの後、新幹線に間に合うように会場を出る前の少しの時間、会うつもりでしたが、連絡の行き違いか結局、訪ねてはくれなくて。残念ながら会えずじまいで帰ってきました。

 彼女と最後に会ったのは、大学生の時だったでしょうか。それすら思い出せないほど、遠い昔です。

 小学生の時から仲良しだった女子4人組の中で一番色気がなく(ごめんよ!)頭が良くていつも淡々としていた美人さん。

 そんな彼女が意外に早くお嫁に行って「私たち結婚しました!」なんてはがきを送ってきた時は、びっくりしたなあ。ユングフラウヨッホでだんな様と2人仲良く写った写真の彼女は、本当に幸せそうな、まあるい笑顔で、こちらまでうれしくなったっけ。

 私たち仲良し女子4人組が中学生の時。そのうち1人の実家がお寺で、1部屋をお借りして大学生に勉強を教えてもらっていました。高校受験の時期で、1人黙々と勉強するのではなく4人で机を囲む方がはかどるからという理由でした。どちらかと言えば、友達のお母さんが出してくれる休憩時間のお菓子とお茶と、みんなでする雑談の方が楽しみでしたけど。

 勉強だけではなく、夏休みには、茶臼山へキャンプに行ったこともありました。先生がキャンプのカウンセラーをしていたので、他の仲間の方たちにも親切にしてもらい、貴重な経験をしました。早朝の空が紫色からピンクの朝焼けに染まるのをテントから4人で見たり、朝露の草を踏みながら散策したり。あの時の風の匂い、今でも覚えています。

 ともすればつらい高校受験も「一人きりじゃないんだ」と感じられる寺子屋のようなあたたかな場所があったおかげで、私たちは、それぞれ希望の高校に合格しました。

 私も進学校だった高校に無事受かりましたが、当時は学校群制度というものがあり、合格しても勝手に進学先を振り分けられてしまうため、私と彼女は別々の高校に入学しました。

 それからは、みんな離れ離れで、それぞれの未来に向かって歩き出しましたが、彼女以外の私たち3人は最近も大みそかに顔を合わせ、お寺で除夜の鐘をつき、甘酒を飲んだことがありました。

 犬山のコンサートから帰って、不意に、もう二度と彼女と会えないんじゃないかとせつなくなり、メールでやり取りしているY子さんに「もし知っていたら、S子さんの電話番号を教えて」とすぐさま連絡しました。この世代になると別れが多くなってくるから、思い立った日が吉日です。

 そして、約30年ぶりに声を聞きました。

 お互い最初は硬かったものの、すぐに打ち解け、あの頃に戻ったよう。もう、たくさん話しましたよ。会ってなくても、遠く離れていても、私たちは今も一緒に時を刻んで歩いているんだなあ。

 ここのところ、コンサートに、学生時代のなつかしい友達が不意に来てくれたり、高校時代の担任の先生がそっと見にきて事務所に感想のメールを送ってくださったり、ということが続いています。

 頑張ってきてよかった。この瞬間のために歩いてきたのかな。

 私はまだまだ頑張ります。ふと、気が向いたら、みなさま、声をかけてくださいね。(シンガー・ソングライター)
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