岡村孝子 2017/04/02 虹のパレット “感じる心”育てた故郷に恩返し 虹のパレット “感じる心”育てた故郷に恩返し 毎日新聞2017年3月27日 土手のツクシがニョキニョキと伸びて、吹き抜ける風や日ざしにも(何となく)春の訪れを感じるようになってきました。皆様の住むあたりは、いかがでしょうか。先日、お彼岸の墓参りのために故郷、岡崎に帰省してきました。 母と娘、愛犬りりぃと共に5日間。久しぶりにふるさとを満喫しましたが、心地良い“気”が流れていたような……。家族みんな、特に大きな病もなく、私も無事に仕事をすることができ、日々、幸せに過ごさせていただいている……本当にありがたいことです。これは、ご先祖様に手を合わせてこねば、と故郷に向かったのですが、結果的に私って本当に岡崎が好きなのね、ということを再確認した時間でした。 実家の周りは、田んぼやビニールハウスが並ぶ市街化調整区域のため、多少の変化はあったとはいえ、基本のどかな時間が今も流れる穏やかな場所。春になれば、レンゲやツクシ、タンポポ、ペンペン草などが、小規模にはなりましたが、あぜ道や田んぼにゆれています。四季の移り変わりがはっきり感じられる、ここで育たなければ、詞を書いたり、メロディーを奏でる感性?のようなものは育まれなかったかもしれません。35年間、音楽の仕事を続けてきて、疲れてしまって消耗した時、心の中でこの風景を抱き続けてきました。滞在中、娘や母、りりぃを伴っておいしい空気を吸いながら何度も散歩しました。 自分の通った小学校までの道をたどった時は、雪の降る冬の朝、通学中に上級生の男の子に手袋を取られ、それを犬が持って行ってしまい大泣きしたことを思い出し苦笑いしたり、別の日には、子供の頃、よく行った康生通り(家康が生まれた所)にも行ってみました。久しぶりに通りを歩き、父によく連れていってもらった和泉屋さんのみたらし団子を求め並んでみたり、家族で行った「さんとくや」さんで、一服したり、と母と娘と3世代で懐かしい日々を共有しました。 東京で暮らすようになって32年、故郷との距離が、その時々で近くなったり遠くなったりすることはありましたが、心の奥深いところでは大切な存在です。 昨年から愛知の音楽大使をやらせていただいたり(もっと愛知の良いところをアピールせねば!)、岡崎市民栄誉賞を頂いたり、故郷を近くに感じる機会が増えています。ふるさとで育んだ“感じる心”をもとに瞳に映るすべてを言の葉に変え、生涯現役を目指し頑張っていきたいと思ってます。そして“感じる心”を育ててくれたふるさとに少しずつ恩返ししていけたら……と思っています。 4年にわたり、虹のパレットに関わらせていただきありがとうございました。拙い文章を毎回読んでくださった皆さま、本当に感謝しております。この春、卒業致します。6月から始まるコンサートツアー「T’s GARDEN」、あなたの家の近くのお庭にお邪魔した際には、ぜひ足を運んでくださいね。それでは、また、お会いできる日まで。(シンガー・ソングライター)=岡村孝子さんの「虹のパレット」は今回で終了します。 ■人物略歴 おかむら・たかこ 1962年愛知県岡崎市生まれ。椙山女学園大学在学中に同級生の加藤晴子さんとデュオ「あみん」を結成し、82年に「待つわ」でデビューした。85年にソロデビュー。87年に発表した「夢をあきらめないで」はロングセールスを記録した。渋谷公会堂メモリアルライブを収めたブルーレイ「ENCORE8」、ソロデビュー30周年記念ベストアルバム「DO MY BEST 2」発売中。 PR