忍者ブログ

   

散歩風景いつか曲に…岡村孝子(3)


     散歩風景いつか曲に…岡村孝子(3)


                                                             
                                                  読売新聞  2015年10月09日 
 

  「子犬のワルツ」という曲は、ショパンが、子犬が自分の尻尾を追いかけ回す情景にヒントを得て作曲したものだと言われています。
 残念ながら、私には、いま飼っているりりぃや、以前飼っていたハッピーやルースのしぐさを見て作ったり、直接彼らに向けて書いたりした曲は一つもありません。
 ラブソングなどをレコーディングしている時に、亡くなったルースやハッピーを思いながら、歌の中の「あなた」に彼らを重ねたことはありますが……。
 普段は、ボーッとしながらも、自分なりに何となくアンテナを張り巡らせているつもりです。そのアンテナに引っかかったものを自分の中で昇華させ、アウトプットする、という作業が、作詞だったり作曲だったりということになります。
 ものを創るのはとても孤独な作業です。一人暮らしをしていた20代の創作は苦しく、仕事部屋に一人こもって朝を迎えてしまうことは日常茶飯事。いつもスケジュールに追われ、1年の間にアルバム1枚を作り、忙しい時は2種類の全国ツアーと野外コンサートを行うという日々でした。
 東京に出てきている学生時代の友達が、仕事の後の自由時間を楽しんでいる時も、私はひたすら部屋にこもって創作。食事などに誘われても、たびたび断るうちに、誰も声をかけてくれなくなりました。泣きべそをかきながら、心細い夜を幾度過ごしたことか。
 ところが、1992年に飼い始めたルースは、私が仕事をしているのをソファで見守ってくれ、ベッドで寝るときも一緒という最強のパートナーになりました。りりぃも今、あちこちで仮眠をしながら、私がベッドで寝る頃になると、どこからか走ってきて、一緒に休んでいます。おかげで、創作がさほど苦痛ではなくなりました。
 今では時間の使い方もかなりうまくなり、子どもが学校に行っている間や、眠った後に、自分だけの時間や、母ではなくアーティストとしての時間を持つことが、喜びになりました。
 そして、作詞や作曲をするうえで重要なのが、読書をしたり、映画を見たり、心の琴線に触れることを探したりするインプットです。最近は、四季折々の花や木々が並ぶ道を、りりぃと散策するのが楽しみです。
 りりぃを連れていると、犬の散歩中の人とあいさつを交わしたり、学生さんが「かわいい!」と声をかけてくれたりして、知らない人とつながるきっかけが生まれます。普段、道で知らない人と話すことなんてめったにないのに、不思議ですね。
 私にとって、音楽は絵日記のようなもの。この散歩道で見た風景も、いつかは歌詞の中に出てくるのかな、と思っています。
おかむら・たかこ
 シンガー・ソングライター。1962年、愛知県生まれ。82年に「あみん」としてデビューし、85年にソロ活動を開始。9月27日には、11月以降に取り壊される渋谷公会堂(東京)で、コンサート「T’s GARDEN~渋谷公会堂 FINAL~」を行った。



東京都内で(池谷美帆撮影)










PR