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凍った心 解かした光…(1) 読売新聞

     凍った心 解かした光…(1)

  「ただいまー」とマンションのドアを開けると、廊下の向こうから、まっしぐらにりりぃが駆けてきます。

 まるで、笑顔で「おかえり~」って言っているように、鼻にしわを寄せ、口角を上げて。


 りりぃが我が家にやって来てから1年と5か月が過ぎました。りりぃはチワワの女の子。1歳と7か月。明るく、さっぱりとした性格で、甘え上手。おかげで私たち家族(母と娘と私)は、日々癒やされ、パワーをもらっています。


 りりぃが来る少し前、12年間もかわいがっていたチワワの「ハッピー」が亡くなりました。娘の4歳の誕生日に、「一人っ子なので寂しくないように」という思いと、「動物を飼い始めたら、一生お世話をしないといけない責任があることを学んでほしい」という考えからプレゼントした犬です。それ以来、姉弟のように仲良く、娘の人生の4分の3を共にしてきたハッピーが、一昨年の冬、悪性リンパ腫になり、治療中の不幸な事故で命を落としてしまったのです。家族、とりわけ娘の悲しみは深く、家の空気はどんよりと沈み、二度と光が差すことはないのではないかと思う日々が続きました。


 そんなある日、母の車の調子が悪くなり、弟が見に来てくれました。そして、ついでに試し運転をしてくれるということになり、気分転換に私たちも同乗して近所をドライブしました。


 ペットショップの前を通りかかった時、ふと、無性にあの「フワフワ感」が懐かしくなり、「見るだけ」ということで立ち寄ってみることに。今思えば、ペットロス症候群になる一歩手前だったのかもしれません。


 そして、そこで、ハッピーの子犬時代にそっくりなりりぃと出会ったのです。ハッピーと同じように娘の指をガジガジとかみ、娘によじ登って顔をペロペロとなめる子犬。思わず、「デジャブ!」と、娘と顔を見合わせました。


 「これは運命の出会いに違いない」と、その日のうちに連れて帰り、りりぃ(Lily=ユリ)と名付けました。ユリの花言葉は「無垢むく」。愛くるしい瞳を輝かせ、全身で「大好き」という気持ちを表して、家族に寄りそってくれるこの子にふさわしいと思ったのです。


 りりぃは、凍っていた私たちの心を解かし、家の中に明るい光を戻してくれました。これから、家族のアルバムに、りりぃとの思い出をどんな色で残していけるのか、とても楽しみです。


おかむら・たかこ
 シンガー・ソングライター。1962年、愛知県生まれ。82年に「あみん」としてデビューし、85年にソロ活動を開始。今月27日には、11月以降に取り壊される渋谷公会堂(東京)で、コンサート「T’s GARDEN~渋谷公会堂 FINAL~」を行う。
東京都内で(池谷美帆撮影)
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